安井建築設計事務所が BIM と IoT 環境センサーの活用でサステナビリティを向上

by Yasuo Matsunaka
- 2018年9月27日
安井建築設計事務所 BIM IoT
[提供: 安井建築設計事務所]

建物のライフサイクル コストのうち、運営・維持段階のコストは建設段階の約 4 倍にもなるとされる。建物全体を情報化、視覚化し、データの蓄積や分析が容易になれば、建物の発注者やオーナーに、そのコストをうまくマネジメントする機会が提供される。

大阪市に本社を構える 1924 年創業の安井建築設計事務所は、日本の「BIM 元年」と呼ばれた 2009 年に先駆け、2007 年にはトップダウンで BIM (Autodesk Revit) を全社に導入。導入当初から、自らの設計品質や業務向上の道具とするだけではなく、建物に関する良質な情報の生成と蓄積に活用し、BIM を「発注者の経済活動や地域社会のメリットとなる、情報やコミュニケーションの基盤にする」という明確なビジョンを持っていた。

安井建築設計事務所では現在、基本設計の約 90%、実施設計の約 70% が BIM で行なわれているという。だが同社ICT 本部長の繁戸和幸氏は、日本における BIM の存在を「設計や施工で使われていても、個別のプロセスの部分最適に留まっていることも多いと感じています」と述べる。「BIM がさらに広がっていくには、生産プロセス全体の最適化、発注者やビルオーナーへのメリット提供につなげる必要があります」。

安井建築設計事務所 繁戸 BIM IoT
Autodesk University Japan 2018 で講演を行った安井建築設計事務所 ICT 本部長の繁戸和幸氏

安井建築設計事務所では ICT/BIM の活用による発注者や地域社会にとってのメリット拡大を、設計事務所の持つ社会的な使命のひとつだと考えているという。「そのためにBIMを設計・監理や施工から、建物のライフサイクル全体に広げて行く取り組みを進めています」と、繁戸氏。「建設段階は ICT や BIM の活用によって効率化が進みつつあるため、運営・維持段階への BIM 導入は、相対的に、より効果が高くなるのではないかと考えています」。

建物の運営・維持における BIM の活用には、5 つのポイントがあると繁戸氏は述べる。「1) 運営・維持段階を見据えた設計・施工計画を行なうこと、2) BIM ガイドラインと BIM 実行計画の策定、3) FM (ファシリティ マネジメント) のための建物構成要素の標準化・共有化、4) 竣工後の建物データベースとしての活用、そして5) ライフサイクルを通じた BIM モデルのマネジメントです」。

ここで挙げられた「建物ライフサイクルを通したマネジメント」のため、安井建築設計事務所が今春リリースしたサービスが、そのプラットフォームとなる「BuildCAN (ビルキャン)」だ。建物の運用にかかわるさまざまな人たちが、クラウド上の BIM モデルを中核としたデータベースをいつでも、どこからでも利用可能。クラウドベースのため特殊なソフトを必要とせず、必要な情報へ Web ブラウザ上から簡単にアクセスできる。

この BuildCAN のもとになった「建築情報マネジメントシステム」は、BIM モデルに建物の点検・管理情報を加えることで、設計・施工時だけでなく竣工後の運営・維持段階でも活用できるように実用化したもの。熊本大学の大西研究室が開発したシステムをもとに、安井建築設計事務所が 2013 年ごろからビル管理会社と協力して、民間企業のオフィスビルにおける実際のビル管理業務で実証を行い、第 10 回日本ファシリティマネジメント大賞・技術賞を受賞。そこで得られた実証や知見をもとに BuildCAN の開発が行われた。

「BIM モデルの可視化に Autodesk Forge を利用しており、Web ブラウザ上の 3D ビューワーで、自由に BIM モデルを表示できます」と、繁戸氏。「BuildCAN で複数の建物を群として管理して、BIM モデルのない既存の建物を含めた一元管理が図れます。また、施設の点検をタブレットで行うことで点検業務のデジタル化や点検報告書の自動作成など、維持管理業務の支援も可能です」。

さらに環境マネジメント機能も付加され、建物内に設置した IoT 環境センサーによる温度・湿度や照度、CO2 などの情報を、BIM モデル上に分かりやすく可視化できる。センサー情報から空間の快適性や省エネ状況の診断などが可能で、外気の通風による換気を行い、空調機を停止するのが有効な場合にお知らせする「自然通風換気アドバイザー」機能も搭載。省エネルギー状況グラフ機能では、消費電力量の予測値と IoT 電流センサー情報にもとづく実際の消費電力量を比較することで、消費エネルギーの低減、最適化につなげることもできる。

照度や温度、湿度、快適性などの情報を簡単に共有でき、きめ細かな空調機の運転などを行うことにより快適な空間が実現。室内の二酸化炭素レベルや空間のレイアウトや活用状況などを最適化することで、仕事への集中度も向上することが期待できる。また、将来的には放射温度センサーにより、部屋の使用状況や執務状況なども確認可能にする予定だ。

これまでの実証結果によると、BuildCAN を導入することで保全、修繕、更新コストを 10-20% 低減可能※1。さらに IoT 環境センサー情報と自然通風換気の導入により、1 日あたり最大 60% 程度の空調エネルギーの低減効果※2が確認されている。

※1: ビル管理会社による、ビル管理業務の効率化による推計値。
※2: 自然通風換気アドバイス機能により、中間期に窓を開け空調機を停止した場合の実測値(消費電力量)。

将来的には顧客ニーズに応じて、設備機器などの制御や IoT/AI ビッグデータ解析、構造センサーによる構造ヘルスモニタリング、警備システムとの連携などを追加して、発注者に利益や付加価値をもたらす、ビル経営・運営のプラットフォームへ拡大することが考えられている。

そうした取り組みのひとつとして、同社とトランスコスモス株式会社、応用技術株式会社が共同で、BuildCAN などを活用した、「ICT によるビルオーナーやビル運用会社に向けの施設マネジメント・ワンストップサービス」の提供もアナウンス。安井建築設計事務所はクライアントの要件を整理して、全体のマネジメントを行う。

建築情報のデジタル化の先にある未来

「BIM やビッグデータ、IoT、AI、ブロックチェーンなどのテクノロジーは、さまざまな分野で起こっているイノベーションやデジタル トランスフォーメーションのコアとなるテクノロジーであり、これからの建築や都市のデジタル化、情報化を支えるテクノロジーだと思います」と、繁戸氏。「環境や地震、稼働状況のセンサー情報などを蓄積して、それらをBIMモデルと相互に連携できるようになれば、建物のデジタル ツインが実現できるかもしれません」。

安井建築設計事務所 BIM IoT
[提供: 安井建築設計事務所]

「従来の BIM モデルは竣工時の状態が記録されたフリーズされたモデルですが、点検情報やセンサー情報で BIM モデルが更新され、その解析を行うことで経年変化や使用状況による劣化・故障などが予測できるようになるのではないかと考えています」と、氏は続ける。「用途変更や設備機器の更新のシミュレーションを行い、現実の建物にフィードバックすることによって、建物の運営や維持管理の最適化が図られるようになるでしょう」。

「とはいえ、実際の建物や都市は非常に多くの情報から成り立っているので、関係者やメーカーが個別にシステムを構築するのは容易ではありません。日本の社会が抱えるさまざまな課題を解決して新しいサービスを生み出していくには、国や業界が手を携えて、社会にとって有益でオープンなインフラやプラットフォームを構築していくことが重要だと考えています」。

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